市川森一氏が創造した『私が愛したウルトラセブン』の現実と虚構

NHKドラマ 私が愛したウルトラセブン(DVD2枚組)
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現実を取り入れたフィクションだった『私が愛したウルトラセブン』

1993年2月にNHKで土曜ドラマの枠で放送された『私が愛したウルトラセブン』は『ウルトラセブン』の制作現場を舞台にした素敵なドラマでした。

田村英里子さん演じるアンヌ(ゆり子)を主人公にした、このドラマの脚本を書かれたのは『ウルトラセブン』を作った男たちの一人で、残念ながら2011年に亡くなられた市川森一氏でした。

ご覧になった方はご存知でしょうが、現実を下敷きにしてはいますが、けっして『ウルトラセブン』の制作現場で実際にあった事を忠実に再現したセミドキュメンタリー風のドラマではなく、『ウルトラセブン』の制作現場という現実に存在した場を舞台にしているもののフィクションの要素が非常に大きいドラマです。

『私が愛したウルトラセブン』のストーリー

第一部 夢で逢った人々(1993年2月13日放送)

円谷プロにアルバイトで来ていた体育大学の学生・ゆり子は、脚本家が起こした事故のために怪我をして出演できなくなった女優の代わりのアンヌ役にスカウトされる。

ダン役の森次は、シャンソン歌手・冬木直子と一緒に婚姻届けを出しに行く予定だったが、トラブルのため約束の時間に遅れそうになり、撮影用の自動車=ポインターで駆け付けるが、間に合わなかった。結果、ダン(森次)と直子は別れることになる。

テレビ局のプロデューサー・三国の意向もあり、円谷プロ所属の上原と『快獣ブースカ』の脚本を書いていた石川が競って脚本を書くことになった。

しかし、上原が書きあげた『300年間の復讐』は、琉球の民の怨念が剥きだしになっていたため、そして、石川が事故死した脚本家の未完成の脚本を元に書き上げた『他人の星』も打ち合わせ時に登場させるはずになっていた宇宙少年も登場せず、怪獣とセブンの格闘場面もなかったために三国をガッカリさせる。

第二部 夢見る力(1993年2月20日放送)

『ウルトラセブン』の撮影も大詰めを迎えつつあった頃、ゆり子は、森次が結婚するはずだった直子と彼女の仲間・卓也の頼みを受け、アメリカ人の脱走兵・マイケルの逃走に協力することになる。

ゆり子から相談を受け、ダン(森次)もセブンのスーツアクター・竜次とともにマイケルの逃走に協力することにしたが……結局、マイケルの件は、円谷プロのスタッフたちも知るところとなり、『ウルトラセブン』をキズモノにするわけにはいかないスタッフたちをも巻き込むことになる。

しかし、マイケルは警察とSPに捕まってしまい、ダン(森次)も事情聴取を受けることになってしまったが……ダンは無事に釈放され、『ウルトラセブン』の撮影は完了する。

『ウルトラセブン』という夢の世界を体験した ゆり子は体育大学に戻ることにしていた。

『私が愛したウルトラセブン』とは異なる現実

『ウルトラセブン』のコアなファンの方ならば、上記の『私が愛したウルトラセブン』のストーリーが現実とは随分違っているものだという事がわかるはずです。

『私が愛したウルトラセブン』とは異なる現実がどのようなものかを挙げていってみますと

●ひし美ゆり子さんはアンヌ役に決まった時、既に東宝所属の女優だった

●アンヌ役に当初決まっていた豊浦美子さんが役を降りることになったのは、映画出演が決まったため

●怪我のために出演できなくなった女優は『ウルトラマンA』で南夕子役に決まっていて、既に撮影も始まっていた関かおりさん

●森次晃嗣氏が結婚をし損なうエピソードは完全なフィクション

●アメリカ人の脱走兵に関する話は完全なフィクション

●金城哲夫氏が『ウルトラセブン』最終回の脚本を仕上げた後、故郷・沖縄に帰っていく描写があったが、実際に金城氏が沖縄に戻ったのは『マイティジャック』『戦え!マイティジャック』『怪奇大作戦』の終了後

などなどとなります。他にも細かな事まで挙げていったらキリがありません。

『私が愛したウルトラセブン』の虚構の部分を真実だと思ってしまっている人たちもいる!

上記のように『私が愛したウルトラセブン』は、現実とは異なる部分が多いドラマでしたが、『ウルトラセブン』を作った男たちの一人でもあった市川森一氏が脚本を書かれていたこともあってか、その虚構の部分を現実にあった事と勘違いしてしまった視聴者も少なくなかったようです。

ひし美ゆり子さんがアンヌ役に決まるまでの経緯、森次さんの結婚に関する話などを現実にあった事だと思い込んでいる人はかなりいるようですし、中にはアメリカ人の脱走兵の逃走に『ウルトラセブン』制作現場の人々が関わったという話まで実際にあったと思い込んでしまっている人までいるようです。

まあ…『ちびまる子ちゃん』の花輪君も丸尾君も実在すると思い込んでいる人がたくさんいるくらいですから(タマちゃんやハマジは実在です)それも無理もないことなのかもしれませんが…。

現実と虚構の境界が曖昧な作品を数多く書かれた市川森一さんは、もしかしたら、かなりの視聴者がそのような誤解をされることも承知の上で『私が愛したウルトラセブン』の脚本を書き上げられたのかもしれませんね。

【2017年11月23日】

続けて作品世界多角的研究8 『ウルトラセブンは左利きと設定されていた!?』のページをご覧ください

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